
この記事の要点
- 労働者を使う事業には労災保険がかかる。雇用形態にかかわらず1人でも雇えば、保険関係が成立した日から10日以内に成立届を出す(労働保険徴収法第4条の2)。手続きをしないまま起きた労災事故では、給付額の40%か100%が店から徴収されうる
- 雇用保険は、週20時間以上働き、31日以上続けて雇う見込みのある人が対象(雇用保険法第6条)。資格取得届は雇った月の翌月10日までにハローワークへ出す。2028年10月1日からは週10時間以上に広がる
- 健康保険と厚生年金は、法人の店なら従業員が1人でも、社長1人だけでも加入する。個人経営の店は、常時5人以上でも飲食店などのサービス業は加入義務の業種に入っていない。加入した店では、資格取得届を5日以内に出す
最初のスタッフを雇ったとき、面接と給料の決め方までは考えても、保険の手続きは後回しになりがちです。「うちは小さい店だから入らなくていい」と思い込んでいる店もあります。
実際には、保険ごとに加入の条件が違います。労災保険と雇用保険は、雇った人が1人でも手続きが要ります。健康保険と厚生年金は、法人か個人経営か、何人使っているかで決まります。この記事では、雇用契約で人を雇っている店を対象に、3つの保険の条件と届出を、条文と公的機関の資料で確認します。
労災・雇用・社会保険で異なる加入条件と届け先の全体像
まず全体を並べます。細かい条件は、このあと保険ごとに見ていきます。
| 保険 | 店が加入する条件 | 対象になる人 | 届け先 |
|---|---|---|---|
| 労災保険 | 労働者を1人でも使う | 雇っている労働者(雇用形態を問わない) | 労働基準監督署 |
| 雇用保険 | 労働者を1人でも雇う | 週20時間以上、31日以上雇う見込みの人 | ハローワーク |
| 健康保険・厚生年金 | 法人は従業員が1人でも。個人経営は常時5人以上で、法律に列挙された業種 | 通常の労働者と、その4分の3以上働く人など | 年金事務所か事務センター |
労災保険と雇用保険は、法律上まとめて「労働保険」と呼ばれます(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第2条第1項)。健康保険と厚生年金はまとめて「社会保険」と呼ばれることが多く、こちらは日本年金機構が窓口です。
労災保険は1人でも雇えば義務になり、10日以内に届出を出す
労災保険の対象になる事業は、労働者災害補償保険法第3条が決めています。
この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。
労働者災害補償保険法 第3条第1項
人数の下限は書かれていません。厚生労働省も、常勤、パート、アルバイトなどの名称や雇用形態にかかわらず、労働者を1人でも雇っている事業は強制適用事業で、成立手続を行う義務があると説明しています。労災保険と雇用保険は、雇った人が1人でも、店の側に手続きの義務があります。
保険関係は、事業が始まった日に成立します(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第3条)。店はその日から10日以内に、保険関係成立届を出します(同法第4条の2第1項)。届け先は、店の所在地を管轄する労働基準監督署またはハローワークです(同法施行規則第4条第2項)。あわせて、その年度の保険料を概算保険料として、保険関係が成立した日から50日以内に申告して納めます(同法第15条)。
手続きをしないまま労災事故が起きたらどうなるか
成立届を出していなくても、雇っている人が仕事中にけがをすれば、労災保険の給付が行われることがあります。そのとき、国は給付に使った費用を店から取り立てることができます(労働者災害補償保険法第31条第1項第1号)。対象は、事業主が故意または重大な過失で成立届を出していない期間中に起きた事故です。送りの途中のけがが労災保険の対象になるかは、キャストを送る車で事故が起きたらで扱っています。
(1) 最大2年間遡った労働保険料及び追徴金(10%) (2) 故意又は過失により、労災保険給付額の40%又は100%
厚生労働省「成立手続を怠っていた場合は」
厚生労働省の説明では、労働局の職員から手続きをするよう指導を受けたのに出さなかった場合は「故意」とされ、給付額の100%が徴収されます。指導を受けていなくても、適用事業になってから1年を過ぎて手続きをしていなければ「重大な過失」とされ、40%です。「事故が起きてから手続きすればいい」では、この費用を避けられません。
雇用保険は、週20時間以上・31日以上雇う見込みのスタッフが対象
雇用保険も、労働者が雇われている事業なら店の規模を問わず適用されます(雇用保険法第5条第1項)。ただし、雇った人全員が被保険者になるわけではありません。同法第6条が、対象にならない人を並べています。
次に掲げる者については、この法律は、適用しない。 一 一週間の所定労働時間が二十時間未満である者(中略) 二 同一の事業主の適用事業に継続して三十一日以上雇用されることが見込まれない者(後略)
雇用保険法 第6条(抜粋)
つまり、契約で決めた週の労働時間が20時間以上で、31日以上続けて雇う見込みのある人が対象です。学生や生徒は原則として対象外ですが、卒業後も同じ店で働くことが決まっている人、休学中の人、定時制の課程の人などは対象になります(同法施行規則第3条の2)。
雇用保険の適用事業になったら、店は雇用保険適用事業所設置届を、設置の日の翌日から10日以内に出します(同規則第141条)。雇った人ごとの資格取得届は、雇った日の属する月の翌月10日までに、店の所在地を管轄するハローワークへ出します(同規則第6条第1項)。届出をしなかったり偽ったりすると、6月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金の対象です(同法第83条)。
雇用保険に入る外国籍の人を雇ったときは、この資格取得届とあわせて外国人雇用状況の届出を行います(労働施策総合推進法施行規則第10条・第12条)。詳しくは外国籍のキャストやスタッフを雇う前ににまとめました。
2028年10月1日からは、雇用保険の対象が週10時間以上に広がる
雇用保険の週20時間の線は、法律の改正で下がることが決まっています。令和6年の改正法(令和6年法律第26号)により、雇用保険法第6条第1号の「二十時間」は「十時間」に改められます。施行日は2028年(令和10年)10月1日です。
週に2日、1日5時間だけ入るアルバイトは、いまは週10時間なので対象外です。2028年10月1日からは、学生でなく、31日以上雇う見込みがあれば対象になります。短いシフトで入る人の多い店ほど、この改正で届出の対象が増えます。それまでに、雇用契約書に週の所定労働時間を書いているかを確かめておくと、判断がしやすくなります。
健康保険と厚生年金の加入義務は、法人か個人経営かで異なる
健康保険と厚生年金は、事業所の単位で加入が決まります。健康保険法第3条第3項と厚生年金保険法第6条第1項は、加入が義務になる事業所を2つに分けています。
1つは、国、地方公共団体、法人の事業所で、常時従業員を使うものです。日本年金機構は、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて適用事業所になると説明しています。法人で店を経営していれば、スタッフを雇う前の社長1人の段階から加入の対象です。
もう1つは、法律に列挙された業種の事業所で、常時5人以上の従業員を使うものです。列挙されているのは、物の製造、物の販売、金融、医療、法律・会計の業務などです。飲食店などのサービス業は入っていません。日本年金機構も、個人事業所のうち旅館、飲食店、理容店などのサービス業は除くと明記しています。
| 店の形 | 従業員 | 健康保険・厚生年金 |
|---|---|---|
| 法人 | 1人以上(社長1人だけの場合を含む) | 加入が義務 |
| 個人経営・列挙された業種 | 常時5人以上 | 加入が義務 |
| 個人経営・飲食店などのサービス業 | 人数を問わない | 義務ではない(従業員の2分の1以上の同意を得て、認可を受ければ加入できる) |
個人経営のサービス業の扱いは、改正で変わります。令和7年の改正法(令和7年法律第74号)により、2029年(令和11年)10月1日から、業種を問わず常時5人以上の従業員を使う事業所が加入の対象になります。ただし、その時点ですでにある個人経営の店は、当分の間これまでの扱いが続くという経過措置があります。2029年10月以降に個人で新しく店を開く場合は、この点を年金事務所に確認してください。
パートやアルバイトは、どの条件を満たすと社会保険に入るのか
加入が義務の店でも、働く人全員が被保険者になるわけではありません。日本年金機構は、パート・アルバイトでも、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ店で同じ業務をする通常の労働者の4分の3以上なら被保険者になると説明しています。通常の労働者の所定が週40時間の店なら、時間でいえば週30時間以上です(日数の条件も別にあります)。
4分の3に届かない人は、「短時間労働者」として別の要件で判断します。ただし、これが当てはまるのは、厚生年金の被保険者が51人以上の企業(特定適用事業所)などに限られます。被保険者が51人に満たない企業では、被保険者の同意を得て任意特定適用事業所の申出をしていなければ、4分の3未満のパート・アルバイトは加入の対象外です。
| 短時間労働者の要件 | いま | 改正後 |
|---|---|---|
| 週の所定労働時間 | 20時間以上 | 変わらない |
| 月の所定内賃金 | 8.8万円以上 | 2026年10月1日から要件がなくなる |
| 学生でないこと | 必要 | 変わらない |
| 企業の規模 | 被保険者51人以上 | 2027年10月から36人以上 |
賃金の要件がなくなることは、健康保険法第3条第1項第9号と厚生年金保険法第12条第5号の、2026年10月1日施行の改正で確認できます。企業の規模の要件については、日本年金機構が2027年(令和9年)10月から36人以上になると案内しています。
加入の対象になる人を雇ったら、事業主は資格取得届を、被保険者の資格を取得した日から5日以内に出します(健康保険法施行規則第24条、厚生年金保険法施行規則第15条)。店が初めて適用事業所になったときの新規適用届も、5日以内です(健康保険法施行規則第19条、厚生年金保険法施行規則第13条)。正当な理由なく届出をしなかった場合は、6月以下の拘禁刑か50万円以下の罰金の対象です(健康保険法第208条、厚生年金保険法第102条)。辞めたときに出す資格喪失届は、辞めたときの書類と期限で確認できます。
業務委託キャストの実態確認と、迷ったときの相談窓口
ここまでの話は、雇用契約で働く人(労働者)が対象です。業務委託の契約で働くキャストには、原則として当てはまりません。ただし、契約書の名前が業務委託でも、働き方の実態から労働者にあたると判断されることがあります。契約の形と実態が合っているかは、社会保険労務士に確認してください。
給料の払い方と天引きのルールは日払い・前借り・罰金の天引きに、深夜の割増賃金は深夜手当はいくら払うのかにまとめました。雇った人の所定労働時間が決まっていれば、保険の判断も割増の計算も同じ記録から始められます。雇ったときの健康診断はキャストやスタッフの健康診断にまとめています。
届出の窓口は、労災保険が労働基準監督署、雇用保険がハローワーク、健康保険と厚生年金が年金事務所です。自分の店が対象になるか、どの人を加入させるかは、雇用契約書とシフトの実績を持って、それぞれの窓口か社会保険労務士に相談してください。
今日できる確認
- 労災保険の保険関係成立届を出しているか。労働保険番号が分かるか
- 週20時間以上で雇っている人の、雇用保険の資格取得届を出しているか
- 店が法人なら、健康保険と厚生年金の新規適用届を出しているか
- 雇っている人ごとに、雇用契約書へ週の所定労働時間と所定労働日数を書いているか
- 業務委託のキャストについて、契約書の内容と実際の働き方が合っているか
出典
- 労働者災害補償保険法(e-Gov法令検索。第3条が適用事業、第31条が事業主からの費用徴収)
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(e-Gov法令検索。第3条・第4条が保険関係の成立、第4条の2が成立の届出、第15条が概算保険料)と同法施行規則(第4条が成立届の届け先)
- 雇用保険法(e-Gov法令検索。第5条が適用事業、第6条が適用除外、第83条が罰則。令和10年10月1日施行の改正で第6条第1号が週10時間未満に変わる)と雇用保険法施行規則(第3条の2が学生の扱い、第6条が資格取得届、第141条が事業所設置届)
- 健康保険法(e-Gov法令検索。第3条が被保険者と適用事業所、第48条が届出、第208条が罰則。令和8年10月1日・令和11年10月1日施行の改正と令和7年法律第74号附則第37条の経過措置)と健康保険法施行規則(第19条が新規適用の届出、第24条が資格取得届)
- 厚生年金保険法(e-Gov法令検索。第6条が適用事業所、第12条が適用除外、第27条が届出、第102条が罰則。令和7年法律第74号附則第18条の経過措置)と厚生年金保険法施行規則(第13条が新規適用の届出、第15条が資格取得届)
- 厚生労働省「成立手続を怠っていた場合は」(未手続の事業主からの費用徴収の率と、故意・重大な過失の認定)
- 厚生労働省「成立手続きについて」労働保険特設サイト(労働者を1人でも雇っている事業は強制適用事業)
- 厚生労働省「労働保険の成立手続」(成立届・概算保険料申告書・適用事業所設置届・資格取得届の期限と届け先)
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」(法人の事業所は事業主のみでも適用、個人事業所のサービス業の除外、4分の3基準)
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(特定適用事業所の51人基準、令和9年10月からの36人基準、短時間労働者の要件)
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則(e-Gov法令検索。第10条が外国人雇用状況届出と雇用保険の資格取得届の併せての届出、第12条が期限)
- 日本年金機構「新規適用の手続き」(新規適用届の提出時期と提出先、飲食店などの除外)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店が加入の対象になるか、雇っている人を加入させるか、業務委託の人が労働者にあたるかは、労働基準監督署・ハローワーク・年金事務所か社会保険労務士へ確認してください。






