
この記事の要点
- 送りの車で人身事故が起きると、店は運行供用者として自賠法第3条の責任を、スタッフに運転させていれば民法第715条の使用者責任を問われうる。自賠責は被害者1人につき傷害120万円・死亡3,000万円までで、物損は対象外
- キャストから送り代を取ると、道路運送法の「有償の運送」にあたるかが問題になる。国土交通省のガイドラインは燃料代などの実費は受け取れるとする一方、許可のない有償運送は第78条違反(1年以下の拘禁刑か150万円以下の罰金、併科あり)。自分の店のやり方は地方運輸局に確認する
- 雇っている人が送りの途中でけがをしたときは労災保険の対象になりうるが、通勤災害か業務災害かは状況で変わるため労働基準監督署に確認する。お酒を飲んだスタッフに運転させることは、道路交通法第65条で禁止されている
営業が終わると、店の車でキャストを家まで送る。夜の店では当たり前の仕事ですが、送りの車で事故が起きたときに誰が何を払うのかを、はっきり決めている店は多くありません。送り代をキャストから取っている店、給料から引いている店もあります。
この記事では、送りの車にかかる決まりを、事故の責任、保険、送り代、労災、飲酒運転の順に確認します。条文と国土交通省・労働局の資料を出典にしています。
送りの車で事故が起きたとき、店も損害賠償の責任を負うことがある
車の人身事故の責任は、まず自動車損害賠償保障法(自賠法)第3条が定めています。
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。(後略)
自動車損害賠償保障法 第3条
責任を負うのは、運転していた人に限りません。「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)です。店の車を、店の送りのために走らせていれば、店がこれにあたるかが問われます。責任を免れるには、運行に注意を怠らなかったことなど3つの条件をすべて証明しなければなりません(同条ただし書)。
送られているキャストも、事故の相手方も、ここでいう「他人」の側に入りえます。国土交通省は、他人とは運行供用者と運転者以外の者だと説明しています。
スタッフに運転させている場合は、民法第715条の使用者責任もかかります。事業のために人を使う者は、その人が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。店は、スタッフの選任と監督に相当の注意をしたことなどを示せなければ、この責任を免れません(同条第1項ただし書)。被害者に払ったあとで運転したスタッフに請求すること(求償)はできますが(同条第3項)、被害者から店が請求を受けうることに変わりはありません。
自賠責保険で補償される限度額と、任意保険で備える不足分
すべての車は自賠責保険(または共済)に入っていなければ走らせられません(自賠法第5条)。入らずに走らせると、1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金です(同法第86条の3)。
ただし、自賠責で払われるのは人身の損害だけで、上限もあります。
| 損害の種類 | 被害者1人あたりの上限 |
|---|---|
| 死亡による損害 | 3,000万円 |
| 後遺障害による損害 | 等級に応じて4,000万円から75万円 |
| 傷害による損害 | 120万円 |
国土交通省の自賠責ポータルサイトは、物損事故は対象にならず、加害者自身の治療費や車の損害も対象外だと説明しています。運転していたスタッフは「他人」ではないので、自分のけがはその車の自賠責では払われません。
上限を超える賠償や物損に備えるのが、任意の自動車保険です。国土交通省も、任意保険の支払限度額や支払対象は商品ごとに異なると書いています。送りに使う車の保険は、誰が運転するか、どんな目的で使うかを保険会社や代理店に伝えたうえで、補償の範囲を確かめてください。スタッフの自家用車を送りに使わせている店は、その車の保険の契約内容も本人と一緒に確認が要ります。
キャストから送り代を取るなら、燃料代などの実費の範囲に収まっているか
送り代をキャストから受け取ると、話は保険だけでは済みません。道路運送法は、自家用自動車(事業用自動車以外の車)を有償で運送に使うことを、災害時などの例外を除いて禁止しています(第78条)。他人の需要に応じて有償で旅客を運ぶ事業(旅客自動車運送事業)のうち、一般旅客自動車運送事業を経営するには、国土交通大臣の許可が要ります(第2条第3項、第3条、第4条第1項)。
何が「有償」にあたるかは、国土交通省のガイドラインが整理しています。以前の通達「道路運送法における許可又は登録を要しない運送の態様について」(平成30年)は、令和6年3月1日のガイドラインの通達で廃止され、考え方が改めて整理されました。
「有償」とは「運送サービスの提供に対する反対給付として財物を収受すること。」であり、これに該当するか否かにより、法の許可又は登録の要否が判断される。
国土交通省「道路運送法における許可又は登録を要しない運送に関するガイドライン」(令和6年3月1日・令和8年6月5日一部改正)
ガイドラインは、運送が無償で行われる場合でも、燃料代・道路通行料・駐車場料金などの「実費」は受け取れるとしています。燃料代は、走行距離を燃費で割り、1リットルあたりの価格をかけて出す方法を示しています。一方、運賃表を決めてそれに従って払わせるものは、謝礼の名目でも謝礼とは認めないとしています。
送り代を1回いくら、距離でいくらと決めて取っている店は、その金額が実費の範囲に収まっているかを、まず確かめてください。 実費を超えて運送の対価を受け取っていれば、許可のない有償運送にあたりえます。現金で受け取るか給料から引くかで、この考え方が変わるとはガイドラインに書かれていません。ガイドライン自身も、最終的には事案ごとに総合的に判断するとしています。やり方を具体的に説明して、店のある地域の地方運輸局(運輸支局)に確認するのが確実です。
なお、第78条の例外にある「自家用有償旅客運送」の登録は、市町村やNPO法人などが行う交通空白地有償運送と福祉有償運送のための制度です(第78条第2号、施行規則第48条・第49条)。店の送りのための制度ではありません。
許可なく有償で送った場合の罰則と、車の使用制限
罰則は、どの規定に違反したかで分かれます。
| 違反の内容 | 罰則 | 根拠 |
|---|---|---|
| 許可を受けずに一般旅客自動車運送事業を経営する | 3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金、または併科 | 第96条第1号 |
| 自家用自動車を有償で運送に使う | 1年以下の拘禁刑か150万円以下の罰金、または併科 | 第97条第1号 |
店のスタッフが店の業務として違反したときは、行為者のほかに、店を営む法人や個人事業主にも罰金が科されます(第99条)。国土交通大臣は、有償で運送に使われた自家用自動車について、6か月以内の期間を決めて使用を制限し、または禁止することもできます(第81条第1項)。送りの車が使えなくなれば、閉店後の運用そのものが止まります。
送り代を給料から差し引くなら、労使協定と労働条件の明示が先
雇っているキャストやスタッフの給料から送り代を差し引く場合は、道路運送法とは別に、労働基準法の決まりがかかります。これは雇用契約で働く人(労働者)の話です。
賃金は全額を払うのが原則で、一部を引くには、法令に定めがあるか、労働者の過半数代表などとの書面の協定が要ります(労働基準法第24条第1項)。協定の結び方は日払い・前借り・罰金の天引きで説明しました。
働く人に負担させるものがあるなら、雇うときに労働条件として明示する事項にもなります(施行規則第5条第1項第6号)。通知書のどこに書くかは雇用契約書や労働条件通知書に何を書くかにまとめています。業務委託のキャストの場合は、この決まりが当てはまるかが契約の実態で変わります。
送りのドライバーを業務委託にしても、許可の問題や事故の責任は残りうる
送り専門のドライバーに業務委託で頼む店もあります。ガイドラインは、他人の車の運転を委託されて運転した人が報酬を受け取っても、有償の運送にはあたらないとしています。例として、企業の車で従業員を送迎し、運転だけを外部に委託する場合を挙げています。
ただし、同じガイドラインは、運転の報酬という名目で、実質的には乗る人から運送の対価が払われていると見られる場合は、許可か登録が要るとしています。キャストから集めた送り代をそのままドライバーに回す形は、この点の確認が要ります。ドライバー自身の車を使う形は、ガイドラインの例にそのまま当てはまらないため、運輸局に確認してください。運転代行業や人材派遣業とみなされる場合があることにも、ガイドラインは触れています。
事故の責任も、委託にすれば消えるわけではありません。民法第716条は、請負人が第三者に加えた損害について注文者は責任を負わないとしつつ、注文や指図に過失があったときは別だとしています。店の車を使わせていれば、自賠法第3条の運行供用者責任を店が問われるかも別に考えることになります。委託の契約書で事故のときの負担を決め、委託先が入っている保険の内容を書面で確かめておきます。許可を受けた事業者に送りを頼む方法もあります。
送りの途中でスタッフやキャストがけがをしたら、労災保険は使えるか
雇っている人が送りの途中で事故にあったときは、労災保険の対象になりえます。労災保険法第7条は、業務上のけが(業務災害)と、通勤によるけが(通勤災害)を、それぞれ保険給付の対象にしています。
店からの帰りは、ふつうは住居と就業の場所との往復で、通勤にあたります。ただ、同条は「業務の性質を有するもの」を通勤から除いています。この意味を、石川労働局は次のように説明しています。
上記1.から4.までの要件を満たす往復行為であっても、当該往復行為中に被った災害が業務災害と解されるものをいいます。例えば、事業主の提供する専門交通機関を利用してする出退勤、突発的事故等による緊急用務のため、休日に呼び出しを受け緊急出勤する場合がこれに該当します。
石川労働局「通勤災害とは」
店が用意した送りの車での帰宅がどちらにあたるかは、車の用意の仕方や運用で変わりえます。事故が起きたら、状況を記録して労働基準監督署に相談してください。送りの運転を仕事として任されているスタッフのけがは、業務中の事故にあたるかを確認することになります。
労災保険の加入の条件と届出先は、労働保険と社会保険の手続きで確認できます。業務委託のキャストが労災保険の対象になるかは、働き方の実態で判断されます。
営業中に飲んだスタッフに運転させると、車を用意した店も処罰の対象になりうる
店のスタッフが運転する場合に、もう一つ外せない決まりがあります。道路交通法第65条は、酒気を帯びた運転(第1項)だけでなく、運転するおそれのある人に車を提供すること(第2項)、酒類を提供したり飲酒をすすめたりすること(第3項)、酒気を帯びていると知りながら送ってくれと頼んで同乗すること(第4項)も禁止しています。営業中に客と飲んだスタッフが送りの車を運転すれば、車を用意した店も、頼んで乗ったキャストも、この条文の対象になりえます。
罰則は、酒に酔った状態で運転すれば5年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、酒気帯びなら3年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金です(第117条の2第1号、第117条の2の2第1項第3号)。車を提供した人にも同じ重さの罰則があります(第117条の2第2号、第117条の2の2第1項第4号)。送りを担当する日は営業中に飲まない、と店のルールで決めておくのが確実です。
今日できる確認
- 送りに使う車の持ち主と、自賠責・任意保険の契約者が誰かを確かめたか
- 任意保険の会社や代理店に、送りに使っていることと運転する人を伝えて、補償の範囲を確認したか
- 送り代を取っているなら、その金額が燃料代などの実費に収まるかを計算し、地方運輸局に確認したか
- 送り代を給料から引いているなら、書面の協定があり、雇うときに負担として明示しているか
- 送りを担当する日は営業中に飲まない、というルールをスタッフと決めているか
出典
- 自動車損害賠償保障法(e-Gov法令検索。第2条が運行・保有者・運転者の定義、第3条が運行供用者の責任、第5条が自賠責の加入義務、第86条の3が罰則)
- 自動車損害賠償保障法施行令(e-Gov法令検索。第2条が保険金額の上限)
- 国土交通省「自賠責保険・共済ってどんなもの?」と「よくあるご質問」(支払限度額、物損や加害者自身の損害が対象外であること、「他人」の意味、任意保険との関係)
- 民法(e-Gov法令検索。第715条が使用者責任、第716条が注文者の責任)
- 道路運送法(e-Gov法令検索。第2条・第3条が旅客自動車運送事業の定義と種類、第4条が許可、第78条が自家用自動車の有償運送の禁止、第81条が使用制限、第96条・第97条・第99条が罰則)と道路運送法施行規則(第48条・第49条が自家用有償旅客運送を行える者と種類)
- 国土交通省「道路運送法における許可又は登録を要しない運送に関するガイドラインについて」(令和6年3月1日国自旅第359号・令和8年6月5日一部改正・PDF。「有償」の意味、実費の範囲、運転役務への報酬、平成30年通達の廃止)
- 道路交通法(e-Gov法令検索。第65条が酒気帯び運転等の禁止、第117条の2・第117条の2の2が罰則)
- 労働者災害補償保険法(e-Gov法令検索。第7条が業務災害・通勤災害と通勤の定義)
- 石川労働局「通勤災害とは」(「業務の性質を有するもの」の説明)
- 労働基準法と労働基準法施行規則(e-Gov法令検索。法第24条が賃金の全額払いと控除の協定、施行規則第5条が明示する労働条件)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。送り代の取り方が有償の運送にあたるかは地方運輸局(運輸支局)へ、送りの途中の事故が労災保険でどう扱われるかは労働基準監督署へ、任意保険の補償の範囲は保険会社か代理店へ確認してください。






