
この記事の要点
- 接待をする店が、売掛の支払いをさせる目的で客を威迫して困らせること、借金や売春・性風俗店勤務などで払うよう客に求めることは、風営法第22条の2で禁止。違反は6月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(併科あり)。警察庁の基準は、売掛金やツケ払い、キャストの立替分も対象に含めている
- 雇っているキャストに客の売掛を払わせる決まりは、労働基準法の賠償予定の禁止(第16条)、前借金と賃金の相殺の禁止(第17条)、賃金の全額払い(第24条)と関わる。売掛分を給料から一方的に差し引くことはできない。業務委託のキャストの扱いは、契約の実態で変わるので弁護士に確認する
- 2020年4月1日以降に生じた売掛の時効は、民法第166条により、知った時から5年か、行使できる時から10年。飲食店の飲食料を1年とした旧第174条は廃止された。回収は支払督促や少額訴訟などの民事の手続きで行い、身の危険があれば警察に相談する
常連の客に「今日はツケで」と言われて、断りきれずに受ける。担当のキャストが客の分を立て替えて、あとで本人から返してもらう。そのまま客と連絡が取れなくなる。売掛は、水商売の店が長く付き合ってきた仕組みです。
2025年の風営法改正は、ホストクラブで客が売掛の名目で多額の債務を負わされた事案を背景にしています。ただ、改正でできた決まりは、接待をするキャバクラ、ラウンジ、スナックにも同じようにかかります。この記事では、回収で店がしてはいけないこと、キャストに売掛を負わせる問題、時効と記録の残し方を、条文と官公庁の資料で確認します。
売掛の回収で客を威迫する行為は、風営法第22条の2で禁止されている
2025年の改正で加わった風営法第22条の2は、接待をする店(風俗営業の1号営業)を営む者に、料金の支払等をさせる目的で客を威迫して困惑させることを禁止しています。2025年6月28日から施行されています。条文の読み方と、会計の場でのもめごとへの対応は会計トラブルで店がしてはいけないことにまとめました。ここでは売掛にかかわる点に絞ります。
警察庁の解釈運用基準は、この「料金の支払」に売掛が入ることを明記しています。
法第22条の2第1号中「料金の支払その他の財産上の給付」には、例えば、(中略)「売掛金」等と称される料金の事後の支払(いわゆる「掛払い」や「ツケ払い」)(後略)
警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」(令和8年7月1日)第17の11(1)ア
同じ箇所には、キャストが客の代わりに料金を店に払った「立替え」の分を客に返させることも挙がっています。キャストが料金分のお金を客に貸した場合の返済や、店と客の間で売掛を貸したお金の形(準消費貸借)に切り替えた場合の返済も、基準は例に挙げています。
威迫とは、人をおびえさせるまでには至らないが、言葉や動作、態度で気勢を示し、相手に不安や困惑を生じさせる行為です。基準は、料金を払わせるために声を荒げることを例に挙げています。違反すると6月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、またはその両方です(法第53条)。従業者が店の業務として違反すれば、店を営む法人や個人事業主にも罰金が科されます(法第57条)。
借金や売春、性風俗店での勤務を求めて売掛を払わせることも禁止されている
第22条の2第1号の「料金の支払等」には、料金に充てるために客がした借金の返済も入っています。客に借金をさせて、その返済を迫る形も、威迫して困らせれば第1号の対象です。
第2号は、払わせるための稼ぎ方を客に求めること自体を禁止しています。
二 客に対し、威迫し、又は誘惑して、料金の支払等のために当該客が次に掲げる行為により金銭その他の財産を得ることを要求すること。
風営法 第22条の2第2号
「次に掲げる行為」として、条文は5つを並べています。売春防止法その他の法令に違反する行為、対償を受けて不特定の相手と性交類似行為等をすること、個室付浴場などの性風俗店で異性の客に接触する役務を提供する業務に就くこと、性行為映像制作物への出演、外国での売春です。警察庁の改正の概要は、これを「売春(海外売春を含む)、性風俗店勤務、AV出演等の要求」とまとめています。
脅すことだけが対象ではありません。基準は「誘惑」を、甘い言葉で相手を動かして判断を誤らせることと説明し、結婚や同居をちらつかせて性風俗店で働くよう求める例を挙げています。罰則は第1号と同じく第53条です。
接待をしないガールズバーやバーも、第22条の2の対象になるのか
第22条の2の主語は「第二条第一項第一号の営業を営む者」です。「風俗営業者」ではなく「営む者」と書かれていて、客の接待をして飲食をさせる営業が対象です。
接待をしないバーやガールズバーが深夜に営業する場合、風営法第32条第3項が準用しているのは第22条第1項だけで、第22条の2は準用されていません。対象外の店でも、回収の相談先が弁護士、身の危険があるときの相談先が警察であることは変わりません。自分の店の接客が接待にあたるかどうかは、管轄の警察署に確認してください。
雇っているキャストに客の売掛をかぶせる決まりは、労働基準法に触れうる
「客が払わなければ、担当の子がかぶる」。売掛をキャストの責任にする決まりは、キャストを雇用契約で働かせている場合、労働基準法の3つの条文と関わります。
1つめは第16条です。使用者は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしてはなりません。回収できなかった売掛をキャストが払う、という額をあらかじめ決めておく決まりは、この条文との関係が問題になります。違反は6月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金です(第119条)。
2つめは第24条の全額払いです。客が払わなかった売掛を、雇っているキャストの給料から一方的に差し引くことはできません。 厚生労働省は、労働者に実際の損害への賠償責任が生じる場合でも、天引きは別だと説明しています。
なお、労働者が故意又は過失によって不良品を出した場合であって、不良品を出したことと会社が損害を被ったこととの間に相当の因果関係が認められるときには、実損害額の全部又は一部について労働者に賠償責任が生じることがありますが、この場合であっても、賃金からの天引きが許されるものではありません。
厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A「不良品を出すごとに賠償金を賃金控除することは、労基法上許されますか?」
同じQ&Aは、賠償を求められる場合でも、請求できる範囲が信義則で限られることがあると書いています。売掛は客の債務です。キャストに損害として求められるかどうか、どこまでかは、個別の事情で決まります。
3つめは第17条です。使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはなりません。売掛の肩代わりを店からキャストへの貸付けや前借りの形にして、給料と差し引きで返させるやり方は、この条文にも触れうる形です。第24条の違反は30万円以下の罰金(第120条)、第17条の違反は第16条と同じ第119条です。給料の払い方全体は日払い・前借り・罰金の天引きで確認してください。自分の店の決まりがどの条文にあたるかは、労働基準監督署か社会保険労務士に確認してください。
辞めるときに一括で返させる高額な借金は、風営法でも禁止されている
風営法にも、キャストに負わせる債務の決まりがあります。第18条の2第1項第1号は、接待をする店などを営む風俗営業者が、接客従業者に対し、辞めたら直ちに残りを完済することを条件に、支払能力に照らして不相当に高額の債務を負わせることを禁止しています。
「不相当に高額」について、警察庁の基準は、接客従業者として通常得る収入などに照らした返済能力に比べ、社会通念上著しく均衡を失するほど高額な債務と説明しています。そうした債務を負わせたキャストの運転免許証などを店が預かることも、第2号で禁止されています。
この規定は、午後10時から翌日の午前6時までの間にも営業するバーなどの酒類提供飲食店営業にも準用されています(第33条第6項)。条文に罰則はありませんが、違反すれば公安委員会の指示や営業停止の対象になりえます(風俗営業は第25条・第26条、飲食店は第34条)。辞めるときの手続きと精算は当日クビはできるかにまとめています。
業務委託のキャストにも、売掛を負わせてはいけないのか
労働基準法が守る「労働者」は、事業に使用され、賃金を支払われる者です(第9条)。業務委託の契約で働くキャストには、第16条・第17条・第24条がそのまま当てはまるとは限りません。ただ、契約書が業務委託でも、働き方の実態から労働者と判断されることがあります。
警察庁の解釈運用基準と、警察庁が公表している改正の概要を確認しましたが、業務委託のキャストに客の売掛を負わせることの扱いを直接述べた記述は見当たりませんでした。一方で、風営法第18条の2は、対象を「営業所で客に接する業務に従事する者」と書いていて、雇用契約の人に限る書き方にはなっていません。
業務委託のキャストとの契約に売掛の負担を入れている店は、その条項が有効か、実態から労働者にあたらないかを、契約書を持って弁護士に確認してください。
売掛の消滅時効は原則5年。店が残しておく記録
売掛は、いつまでも請求できるわけではありません。民法第166条第1項は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しないと、債権は時効で消えると定めています。
改正前の民法第174条第4号は、飲食店の飲食料や立替金にかかる債権を1年で消えるとしていました。2020年4月1日施行の民法改正で、この職業別の短い時効は廃止されました。改正前に生じた債権は、附則第10条第4項により古い期間のままです。
| 売掛が生じた時期 | 時効の期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2020年4月1日以降 | 知った時から5年、または行使できる時から10年 | 民法第166条第1項 |
| 2020年3月31日まで | 飲食料・立替金は1年 | 改正前の民法第174条第4号、改正法附則第10条第4項 |
時効は、期間が過ぎれば自動で請求できなくなるものではなく、客が援用して効果が出ます(第145条)。客が支払いの義務を認めれば、時効はそこから新たに進みます(第152条)。支払いを求める通知(催告)をすれば、6か月は時効が完成しません(第150条)。
あとで請求するにも、客と話し合うにも、何がいくら残っているかを示せる記録が前提です。店では次の項目を、売掛が生じた日に残しておきます。
| 記録する項目 | 理由 |
|---|---|
| 日付と伝票番号、金額と内訳 | 何の代金かを示すため |
| 客の氏名と連絡先 | 請求先を特定するため |
| 支払期日 | いつから請求できるかをはっきりさせるため |
| 客の確認(署名など) | 客が売掛を認めた記録にするため |
| 担当したキャストと、立替の有無 | 誰の誰に対する債権かを分けるため |
| 入金の日付と金額 | 残りの額を示すため |
キャストが客の分を立て替えた場合は、店の売掛とキャスト個人の立替を混ぜずに分けて残します。
売掛を払わない客に店が取れる民事の手続き(支払督促と少額訴訟)
期日を過ぎても払わない客に、店ができるのは民事の手続きです。裁判所は、金銭の支払いを求める手続きとして、支払督促と少額訴訟を案内しています。取立てを暴力団に頼むことの問題は、みかじめ料や用心棒代を求められたらで扱っています。
支払督促は、書類審査だけで裁判所書記官が支払督促を出す手続きで、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。相手が受け取ってから2週間以内に異議を出すと、通常の訴訟に移ります。少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えを、原則1回の審理で解決する手続きです。同じ裁判所で使えるのは1人年10回までです。
どの手続きを使うか、手続きに入る前にどう請求するかは、弁護士に相談してください。客がどなる、暴れる、店の人が身の危険を感じる、といった場面では、ためらわず警察を呼びます。なお、警察庁は、ホストクラブなどで不当な勧誘によって結ばれた契約は、消費者契約法の要件にあたれば客が後から取り消せると案内しています。売掛の中身が、勧誘の仕方を含めて説明できる形になっているかも見直しておきます。
今日できる確認
- 売掛を払わない客に、声を荒げるなど、不安にさせる形で支払いを迫る手順になっていないか
- 客に借金をさせる、稼ぎ方を指図するといった言葉を、スタッフやキャストが使っていないか
- 回収できなかった売掛をキャストが払う決まりや、給料から差し引く運用がないか
- キャストに負わせている借金や立替の残りと、辞めるときの返し方を確認したか
- 売掛ごとに、日付・金額・客の確認・期日・入金を記録しているか
出典
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索。第18条の2が接客従業者への高額な債務の負担の禁止、第22条の2が威迫や売春等の要求の禁止、第32条第3項・第33条第6項が飲食店営業への準用、第25条・第26条・第34条が処分、第53条・第57条が罰則、附則(令和7年法律第45号)が施行期日)
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)(警察庁・令和8年7月1日・PDF。第17の6が第18条の2、第17の11が第22条の2の解釈で、売掛金・ツケ払い・立替えを含むこと)
- 警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律(概要)」(PDF。改正の背景と、接待飲食営業に追加された禁止行為)
- 警察庁「悪質ホストクラブ対策について」(消費者契約法による取消しの案内と相談窓口)
- 労働基準法(e-Gov法令検索。第9条が労働者、第16条が賠償予定の禁止、第17条が前借金相殺の禁止、第24条が賃金の支払、第119条・第120条が罰則)
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A(賠償額の予定の禁止と、賠償責任がある場合でも賃金から天引きできないこと)
- 民法(e-Gov法令検索。第145条が時効の援用、第147条・第150条・第152条が完成猶予と更新、第166条が債権の消滅時効、附則(平成29年法律第44号)第10条が経過措置。改正前の第174条はe-Govの2020年3月1日時点の版で確認)
- 法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」(2020年4月1日の施行と、職業別の短期消滅時効の廃止。パンフレットに飲食代金1年の旧ルールの例)
- 裁判所「支払督促」・裁判所「少額訴訟」(手続きの概要、60万円以下、年10回の制限)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店の回収のやり方が風営法に触れないかは管轄の警察署へ、キャストとの売掛の決まりは労働基準監督署か社会保険労務士、業務委託の契約は弁護士へ、未払いの回収方法は弁護士へ確認してください。






